IMPRUDENT PROJECT OF FUTURE」

 

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 ニノが進学するらしい。にわかには信じられないことだが四年制大学である。彼は東京に在る大学を目指しているようで、教師になりたいそうだ。なるのは勝手なのだが、ニノのデータを見た場合、そうも行かないようである。

まず「偏差値の壁」を見てみると三十台前半と異常に低く、大学入学が困難であると思われる。しかも特定の教科に特化した様子も無い。彼の目標の帝京大や玉川大の教育学部は偏差値六十台であり、普通の高校生でも難易度が高いと思われる。サウス・サン高校のトップ層にでもいない限り、狙えるところではない。彼は自称偏差値五十台と豪語しているが、極秘に彼の机の中にあった結果表を見ると、紛れも無く五十台へ乗った教科は存在しなかった。それだけではない。彼は自分の志望する大学の偏差値を五十台前半と思っていたようなのである。偏差値を確認もせずに志望するなどとても受験生とは思えないことである。きっと自覚がないんだろう。そこで、彼に毎回進研模試で配られる大学のレベル(偏差値)がズラリと明記されてあるプリントを見せてやったら、そのとき初めて気がついたらしい。大学なんかさっさと諦めてしまえ、そんなんだったら。

次に教師への「適正」について考えてみよう。ニノは体育の教師、特に中学校に入りたいと考えているらしい。体育の先生といえばスポーツがある程度できなければなることは出来ない。コレは周りにいる先生を見れば分かることである。ところがニノはどうだろうか。いつも「だりぃ」とばっかり言っていて汗だくになってまでガンバロウとはしていない。部活のときもそうだったし、現在も疲れたらすぐ休む。

もうひとつは「協調性」だろう。体育の先生たるもの生徒をまとめなければならない。しかしニノは日ごろの体育を見ても分かるとおり他人の感情をひとつも考えようとせず、文句をいつも言っている。あいつがダメだったから負けたんだとかたまに聞くが、スポーツマンシップに大いに反する暴言である。だったらお前は何をしたんだ? と問いたくなる。

 それだけではない。体育の時間以外にも傍若無人な態度はあちこちで見受けられる。数学の授業をとってみても、「〜だしたぁ」というようなタメ語を教師の目前で使うなど、とても教養があるとは思えないのだ。教育社会に身を置こうとしているのにそれはないだろう。まさか教頭に、「〜じゃん」とか言うんじゃないだろうな、ニノは。せいぜい「処分」されないように気をつけることだ。そう言えば法律に教職員が教師全体の権威を失うような真似はしてはならんというようなものがあった。多分それで裁かれてしまうだろう。そんな法律があって良かった、良かった。

七話で新聞内定のことを話したが、そのことについても今回は触れておかなければなるまい。ニノは東京の大学へ通うため、既に毎日新聞社との契約を結んでいる。そこでニノに「ちゃんとできるのか?」と訊ねると、「楽勝」といつも通り答えた。では実際どういう生活をするのかと訊くと次のように答えた。

「やっぱ大学は遊ぶところだからぁ、三時間は欲しい。あとはバイトもする」

 というわけで、一日の「ニノ計画」をまとめてみた。

三時に起床後、すぐさま新聞配達を七時までこなす。七時からは準備、通学、大学だ。ただでさえ時間に厳しい大学へ行こうとしているし、夕刊配達もしなければならないので、このくらいの時間から行かないと間に合わない。そのあとはみっちり講義を聞き、三時ごろから夕刊の配達へと向かう。それが終わるのは大体六時くらいだ。しかし、ニノの場合、夕刊の他に集金も受け持つことになっているので、毎月一回はしなければならない。コレでだいたい七時に終了する。そのあとはバイトへ行かなければならないので、帰ったらすぐバイト先へ行くことになる。バイトが終わるころはだいたい夜中の零時になると思われるので、帰ってきてすぐ、ニノ希望の「遊び」をすることになる。そして三時まで遊ぶことになる。そして寝るのがだいたい三時ごろ・・・・ん?。

 無茶苦茶な計画である。これらを無理矢理遂行させるためには大学で講義をしっかり聞きながらレポートを書き、宿題を同時進行させ、適度に頭を休めつつ、大学を過ごすことになる。もちろん昼休みなどは休むための時間ではなく、ひたすら課題をこなすか、寝る事になる。一切余計に休む暇は無い。後は朝のことなのだが、このときにその日の全ての準備をしなければならない。風呂や歯磨き、洗顔などはこの数十分のうちに終わらせなければならない。このようにしてもまだ難点はいくつかある。人の倍以上寝るニノにとって寝ない日が数日継続するというのに果たして耐えられるのだろうかということだ。しかも寝る時間は一日多くても三十分。それに耐えられる見込みはゼロであろう。ニノの計画はニノの「睡魔」との闘いになりそうだ。

 そういえばニノの目指す「玉川大学」は育ちのよさそうな坊ちゃんや嬢ちゃんが入るところだそうで・・・・・しかも時間に非常に厳しく、代理出席なんてトンでもない。大学なのに、朝のHRみたいなものもあって、かなりの統制が取れられているようだ。ニノが苦手とする分野が沢山見受けられる。考え直したほうがよさそうですな、コレは。

 なんだかんだ言ってもニノに明るい未来は無い。どれを取ってもプラスに結びつく部分が無いのだ。あんな強がりばかり言っていて、担任の先生も相当呆れ返っているだろう。クラスの中で最も志望と実力がかけ離れている生徒ナンバーワンの座に輝き続けるニノはこれからもみんなを呆れさせていく。ニノ、いつになったら自分の愚かさに気付くんだろう? そんな周りの疑問は解消されることは無い。ニノは「よくワケが分からない自己中心的な生徒」なんだから・・・・・・・・。

 

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