『IN DA PLATFORM』 1 その男はまた眠そうな顔をしていた。 またパソコンで遊びまくっていたのだろう。しかも高校生の身分で、やってはいけないロムなんかを。しかし本人は「楽勝」などと言いつつ平気でやっている。少しは言葉を慎め。彼を「常識的な人間」と呼ぶ日は遠い。 ニノ。それがその男の名だ。今日もいつもの様に毛を逆立て駅へと向かっていた。 ニノは駅へ着くなりプラットホームのベンチに腰掛けた。しかしそれにしてもだるそうだった。残念なことに爽やかな夏の朝が台無しだ。ニノはおもむろにMDをカバンから取り出し、ニノ好みの音楽を聴き始めた。 そして数分が経過した・・・。 「zzz・・・zzz・・・」 ニノは深い眠りについてしまった。彼が寝てしまった以上、再び目を覚ますには多くの時間を費やす。駅にはちらほらサウス・サン高校の生徒が見受けられてきた。電車の到着は近い。 電車の到来を知らせる音が鳴り響いた。ニノは気付く気配が無い。耳栓式イヤホンなんか着けてるからだ。電車は刻々と接近してくる。ニノは微動だにしない。そして電車は遂に到着してしまった。一斉にドアが開き、サウス・サン高校の生徒が次々に乗り込んでいく。そのうち数人がニノを訝しげに見ていたが、自分は関係ない、と言わんばかりにそそくさと電車内に身を隠すように入っていった。そしてとうとうプラットホームに残されたのはニノただ一人となった。 電車内ではニノの事で少しザワザワとしていた。 「あれ? あれニノ?」 ココサワが誰に言うでもなく呟いた。 「あ、やっぱりニノだ。あの髪形、ニノぐらいしかいない」 ぐっすり誰にも邪魔されずニノは爆睡している。ココサワはなぜあのような場所で寝れるものかと考えていたが、だんだんと考えるのが馬鹿らしくなって、英単語の暗記に取り掛かった。 ニノを凝視する男がいた。車掌さんである。彼を残していくか行くまいかしばらく考えていた。車掌さんは待ってみることにしたようだ。しかし一分経過してもニノに起きる気配が見られない。仕方なく車掌さんは発車することにした。ゆっくりと、ニノを残して駅から電車が過ぎ去ってゆく。ニノは夢の中だった。 ―ニノは取り残されてから十分後、目を覚ました。 「あれ? 俺一人?」 ニノは寝ぼけ眼で辺りを見回した。当然誰一人としているはずが無い。ニノはポケットからケータイを取り出した。画面を見た瞬間、ニノが硬直した。 「ああ! くそっ!」 何を言っても電車は戻らない。ニノは仕方なく次の電車を待つことにした。今度こそ寝ないようにと、自分に言い聞かせつつ・・・。 ニノが学校に急ぎ早で到着する。階段を登る途中ばったりココサワと会った。 「ニノってさっきの電車で来なかったじゃん。あれどうしたの?」 「ああ・・・あれはちょっと忘れ物取りに行ってて」 「ふ〜ん・・・・・・」 あえてココサワは真実をニノに告げなかった。ニノは「じゃ」と言うと、足早にその場を去った。ニノは時間ぎりぎりで教室に着いたが、ニノが来た瞬間、教室の一部の空気が変わった。どんな風に変わったかはなんとなく分かるだろう。 ニノはそれ以降あの事件については言及されるようなことは無かった。しかし彼の失態については多くの人に知れ渡ることとなる。伝説を日々創り出す男はこのくらいの刺激的な生活をしなければならないのだ。彼の伝説は日々創り出される。そう、彼こそ「超楽天家」のトップに君臨し、その座を揺ぎ無いものとした、唯一の人間だ。 |
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