His Bluff』

 

     

 

 とにかくニノは「楽勝」という言葉が好きらしい。何でもかんでも「楽勝楽勝」というので、文脈から見れば天才にしか見えない。しかし大体は出来ないくせにやったハッタリだ。たとえば数学が難しくて悩んでいるときに、どこからともなく現れて、

「なんだ、コンナのもわかんねーの? ラクショーじゃん」

などと言う。ではお前に出来るのかとたずねると、

「だからこれをこうして・・・・・・・あれ? なんない。ちょっと待って・・・・・・・・・・・」

結局参考にもならず、他の人に訊いたほうが早い。いつもそんな調子だから勉強に関しては誰からも訊かれなくなっている。それもこれもニノがただ強がっているだけに過ぎない。

 

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 これはココサワから聞いたもので、今年の九月くらいにあったらしい話だ。彼の情報を元に構成したものなので、多少話が歪曲されたものになっているかもしれないが、もともとこの話は「実話を基にした作品」なので、あまり細かいところまでこだわらないようにしよう。

 

ある放課後、シュツカが帰りの準備をしていたときのことである。突然、

「シュツカシュツカぁ」

シュツカは一瞬で状況を悟った。自己中男、ニノの到来である。

「なんだよニノ」

そっけなくシュツカは返答すると、

「一組いくぞぅ」

ニノは相変わらずのウ○さで他人の迷惑も考えず、からんで来た。

「あれ? ニノ、そのバッグ何?」

ニノが手に持っていたのはどうやらスキー靴のバッグのようだった。

「ああ、これ? 商売道具だって〜」

「商売道具って?」

「いや、なんでもいいじゃん〜。そんなことより早く一組行こうぜ」

ニノは適当に話を誤魔化し、シュツカを無理やり一組へと連れて行った。

 

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 一組教室でココサワはクダと談話していた。するとそこへシュツカとニノが教室へ入ってきた。ニノは

「タワヤ、タワヤぁ(ココサワの名)」

などと無作法に話を無視し、間に割り込んできた。

「帰っつぉ」

ニノが一方的に話を進める。

「ニノ。そのバッグ何? スキー靴?」

「違うって〜。商売道具」

シュツカと同じ問いをしたココサワはさらに問い詰めた。

「ホント何が入ってんの?」

「ちょっとね。ここで開けると片付けんの面倒臭いんだよ。だから見せらんないの」

ますます怪しい中身だ。なぜこの男はここまで隠そうとするのだろうか。

「あ、クダぁ、お前に返すものあったっけ」

ニノは少し離れたところにいるクダと話し始めた。ニノがあのバッグと荷物を置いていった。

 シメタ!

 あの中身を見る絶好の機会だ。ココサワとシュツカは目で合図し、ニノに見えないようにバッグのファスナーをゆっくりと開けた。

 ・・・・紛れもないスキー靴だった。

そう、スキー靴なのだ。九月という意味不明な時期にあるスキー靴。それを商売道具と偽ったニノ・・・・・・。

ココサワは急に帰る支度をし、ファスナーをしっかり開けたままシュツカとともにその場から逃亡した。

 

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 彼がなぜあんな行動をとったのか、未だに分からない。まずスキー靴入れ用のバッグに商売道具を入れるようなやつなんてスキーの選手くらいなもので、ましてやニノが入れられるものなど無い。もっと気のきいた理由は思いつかなかったのだろうか。いや、むしろ正直に「はい、スキー靴入ってます」と言った方が余計な恥をさらすことがなかったのではないか。それをテキトーに誤魔化そうとするから、結果、自分の首を締め付けるテンマツと相成ったのだ。第一、周りからの目をそんなに意識するんなら、最初からそんな入れ物に入れるなと言いたい。こんなことを書いてると、きりがない。よし、一番簡単な方法で言わせてもらおう。

「ニノ。なんで冬に持ち帰らなかったんだ?」

もうこれで十分であろう。これを本人に伝えて、効き目が無いようであれば、もう私に打つ手はない。まことに残念だが・・・・・・・。

 

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