『MIND』 7 先日、毎日新聞社の奨学金説明会に彼と共に ✚ その日は雨模様で、すっきりしない天気だった。説明会は一部と二部に分けられるが、ニノの独断と偏見で「二部に行くぞ」ということに決まってしまった。ニノは赤湯駅から向かうということで、私に時間を指定した。当然私も赤湯駅へと向かった。切符を買い、しばらく時間をつぶしていたのだが、なかなか時間が迫ってもあの男は来ない。メールで確認を取ってみると「もうすぐ着く」と返信が返ってきたのでひとまず安心した。そのうち電車が到着する時間になり私は二番ホームへと向かい、電車を待った。 もうそろそろ着いてもいいころだが、なかなかあの男は来ない。次第に焦りが生じ始めた。 「・・・・・・・電車が入ります。線の・・・・・・・」 ああ、遂に電車が来てしまう。ニノが来る気配は未だない。ああ、あの男はやはり来ないか・・・・。 私は電車に乗り込み、発車までの時間を待っていたときのことであった。遂にあの男は姿を現したのである。ニノは謝るかと思いきや、 「電車時刻表より早いよなあ・・・・・」 などとよりによって言い訳をし始めたのである。あきれた奴だ。 ニノは罪悪感ゼロで私の隣でなにやら話し始めたが、私はただ「んー」と相槌を打つくらいであった。そうこうしている内に、山形駅へと降り立った。 「なあ、どこ行く? まだ時間あるし」 確かにまだ時間はあったのだが、それほど余裕があるともいえないものだった。 「時間はそれほどないからメシぐらいかな・・・・」 「山形駅前行くぞぅ」 そう言ってニノは一人で勝手に歩き始めた。どこまでも自己中心的な男だ。そのうち誰からも相手にされなくなるぞ。 山形駅を少し出たところでニノは急に 「メシ先にすっか」 と言い出した。こういうところが疲れる。またニノは 「こっちにうまいところがある」 そう言いながらまたどこかへ行ってしまった。はぐれると非常に面倒なことになるのでこちらは黙って付いて行くしかない。 「あれ〜? こっち?」 ニノが迷った。散々こちらは雨の中、引きずり回された挙句コレである。 「別に俺は行かなくてもいいけどな・・・・」 「ん〜こっち?」 だめだ。ニノがあきらめるまで話を聞き入れてくれそうにない。 「あれ〜? こっちでもないの?」 もうどうでもよい。頼むから早くあきらめてくれ。 「やっぱ別んとこ行く」 やっとあきらめてくれたようだ。ニノは大通りへと向かって行く。 「で、どこ行くんだ? もうコンビニでもいいが」 「え〜コンビニ? やだ」 なんてわがままなんだ。この男は。 「分かったよ。じゃあ早く決めろよ」 「あ、あの辺良くない?」 ニノが示したのはモスバーガーと(よく覚えていないが何かの)チェーン店であった。 「もうそこでいいよ」 ニノはそうと決まったら早く行こうと言わんばかりにスタコラ歩き始めた。その一帯は地下道が通ってて、反対車線にあるその場所へ行くためにはそこを行かなければならなかった。ニノは何を思ったか見当違いな方向へと進んでいった。階段を上り、地上に出て彼は初めて気付いたようで 「あれ? ここ何処だ?」 などとずいぶんマヌケなことを言い出した。 「ニノ、こっちだ」 仕方なく私が道案内をする。たった十メートルくらいの地下道で。 「ああこっちこっちだったんだよ〜」 ニノはずいぶんと悠長なことを言っているがそんなことよりもその極度の方向音痴をどうにかしてほしい。でないと「大学受験で試験も受けられなかったウツケもの」などという面白いレッテルを貼られてしまう。 「時間があまりないからモスバーガーにするぞ」 「え? 俺モスバーガー嫌い。こっちのほうがイイ」 なぜここまでニノに合わせなければならないのか。私は遅れることを覚悟して、別の店へと入らなければならなかった。 「時間がないから軽めのにしろよ」 私は一番少なそうなカレーライスを選んだのだがよりによってニノは定食など選んだ。人の話も聞けないのか? 全く。 ✚ 早々と食事を済ませ、私たちは山交ビルの七階へと急いだ。行ってみるとまだ第一部が終わっていないようだった。しばらく部屋の隣にあるソファで休んでいた。今までの疲れがここで出たようだ。 なかなか第一部が終わらない。もうとっくに時間は過ぎていた。思い切って中へ入って行く。 「失礼します」 思っていた以上に中は明るかった。人は中に数えるほどしかいなかった。担当者が「もう人が来ないと思っていたから、すいません」と丁寧に謝ってくれた。ニノもこうであると良いのだが、まず無理か・・・・。 ビデオを見せられたり、大学がどうのこうのと言うことを書かせられたり、大変だった。そして話は本題に移る。 「ニノ君は帝京大学教育学部が第一志望のようだけど、他にはあるのかな?」 「え〜、日東駒専あたりも考えてます」 担当者はニノの大学が新聞配達可能であるかどうか、文献で探し始めた。 「あれ? ニノ君。帝京大に教育学部なんて無いんだけど」 「え? 無いんですか?」 「文学部と経済学部しか乗ってないよ」 「ああ、じゃあ多分そのどっちかだと思いますぅ、ハイ」 実に適当なことを言いながらもニノは話を続けていく。そこには理性のかけらの存在はみられない。話はニノに傾き始めた。どうやら内定の方向へと誘導されているようだった。私といえば、東京の大学で、芸術学系統の授業カリキュラムでは夕刊の配達は不可能とされたので、話はそれほどされなかった。 「じゃあ、そういうことだから。何かあったらここに連絡してください」 担当者の人は名刺を取り出し、渡した。 「あ、それからコレは交通費」 説明会に来た者には交通費が支払われるのだ。一番最初に自己申告で書いておいた。 「じゃあ、遅くなってすいませんね」 担当者は深々と頭を下げた。私たちは「失礼します」と言い残し、その場を去った。 ✚ 「なあ、ニノ。お前やけに交通費貰ってなかったか?」 「あ〜。あれは普通に来たときに払う金だから・・・・」 「まさか定期で来た分まで入れていたのか?」 「アタリィ〜」 最悪なやつだ。 「まさか昼食代まで入れてないだろうな」 「ああ、あれも入れといた」 まったく。ニノはこんなこともするか。 私達はビルを出、ニノが行きたいと言って聞かない「先輩の家」へと向かうこととなった。どうやらその先輩はニノの尊敬する先輩らしく、現在では山大工学部に通っているということだ。 「ところで場所は分かるんだろうな」 「前一回行ったときがあるからダイジョーブ」 「ならいいが・・・・」 ✚ また、さ迷うこととなった。教員となろうものがこんなにひどい方向音痴だったら生徒はどう思うだろうか。「あ、ニノ先生また迷ってる〜」などと生徒から馬鹿にされることは必至だ。こっちこっちを散々誘導された挙句、ようやく家を見つけることが出来た。もうニノの案内には従わないことにしよう。 その家は荒んでいた。ゴミは散乱し、カップラーメンの容器や菓子の袋など、無造作に捨てられている。以上に不清潔だ。ニノもいずれこうなってしまうだろう。 しかし先輩とやらがいない。ニノは連絡も取らずにここに来たのだろう。アホだ。 仕方なく先輩にニノが書置きした後、家を出た。もう後は帰るのかと思っていたのだが、ニノはまだ行きたい場所があるらしい。ゲームを見にいきたいというのだ。 「場所は?」 「ああ駅前の大通りだから楽勝」 ✚ その店へ行く途中のことであった。前方にサウス・サン高校生の姿を、ニノが捉えた。本人いわく、百メートル先の人間を識別出来るらしい。その生徒はどうやら女子で、ニノが、 「三年かも。誰だ?」 ニノはその女子をつけるように歩調を早くした。 自分達が行く方向の先にその人はいた。ニノのやっていることはストーカーっぽかった。似合っているぞ、ニノ。 そしてすれ違った。 三十九だった。 見なかったことにしよう。 それから歩き続け、ニノの目的地へと到着した。 ✚ 店内へと入ると普通だった。 「ああ、出るとき呼びに来て」 ニノはそう言いながら、二階へと上って行った。その通り、しばらく待ち、三十分ほどが過ぎたくらいに、ニノを呼びに行った。しかし、二階は実に怪しいものでいっぱいだった。目に飛び込んでくるものは全てRQと言われるものだ。トンでもないところに来たようだ。そしてニノを探し当てた。ニノは熱心に棚を見ていた。授業の倍の集中力を使っているようだ。 「早く行くぞ」 「あ、待って。コレ買うから」 手に握られていたものは高校生がやってはいけないようなゲームだった。お目当てのものを手に入れたニノは実にうれしそうだ。何を妄想しているかは知らないが・・・・。 ✚ エピソードはここで終わる。ニノはつい最近内定したようで、私に内定書を自慢げに見せつけてきた。コレがどういうことかは第九話にて明かすつもりだ。 そういえばニノはこんなことを帰り際に言っていた。 「○○いゲームとかぁ、○○君(クラスの人@)とかやってそうでない? あとさあ、○○君(クラスの人A)とかが○○いゲームとかしてたら面白いよなぁ」 面白くもなんともない。ニノは名を堂々言っていたが、プライバシー保護のためここには名を出さないようにしておく。ヒントを出しておくとすれば、クラスの出席番号8以下の数字だ。 PS(for class) 遂に一巻の完結が迫ってきましたが、二巻目も出すことになりそうです。また新たな伝説が書けると思いますので、ネタがある人はよければ筆者に言っちゃって下さい。二巻目以降、それを元に構成したいと思います。 |
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